漢方の先生によって出す漢方薬がどうして違うの?
「人によって、どうして出す漢方薬が違うのですか?」
と、よく聞かれることなのですが、自分の病気に対して、漢方の専門家が考えて出す漢方薬なら同じになるはずだと思われるのは当然だと思います。
しかし、実際のところ同じではありません。
それはどうしてなのでしょうか?
簡単な理由としては、一人として全く同じ人間がこの世にいないということです。
ということは体質も同じ方はいらっしゃらないのです。
ですので、どんなに問診をしても、その方の全てを把握するのはとても容易なことではありません。
長年、連れ添ったご夫婦であっても、相手の体質が全てわかるなんて方はなかなかいらっしゃらないと思います。
また『その人の体質』の絶対的な答えがあるわけではありません。
それを、全く違う初めて会った人間が外から観察して、体質を分析します。
当然、答えもあるわけじゃないので、観察する側の先生の観察方法や漢方の考え方によって見方や分析が変わってきます。
例えば、別に漢方に限らず、同じものを見ても、人によって感想が違ったり、立場やその方の経験、知識の違いで捉え方が違うという現象が起きますよね。
それと同じ。
漢方は、その人の『証(しょう)』を見ます。(証とは病気の原因、病的な体質のことです)
その「証」が複雑であればあるほど、人によって見方がそれぞれ違ってしまうというのは、とっても自然なことです。
慢性病の人や難病の人はこの『証』が大変複雑なのです。
そして、漢方薬というのは、病名や症状ではなく、その『証』に合わせて選びます。
そのため、漢方医それぞれの個性によって出される漢方薬が違うのです。
現実にはありえないことですが、もし仮にですよ、何人かの漢方医が同じ患者さんをみて、「この漢方薬で治る!」と提案した漢方薬が、全員同じであったなら、この世で治せない病気はなくなっているはずです。
だって、全員一致ならマニュアルが作れるので、それが誰でも治せる漢方薬となるでしょう。
でも、もしもその漢方薬を飲んでも、病気が治らなかったとしたら…漢方薬での治療は絶望的です。
ある意味、いろんな考え方や見方のできる漢方の専門家がいるから、漢方薬での治療に大きな希望が持てるとも言えます。
その分、漢方の治療の腕の良し悪しの差もピンからキリになっているのですけれど。
漢方薬での治療は、人と人とのコミュニケーションの相性も大きく関わってきます。
患者さんが伝えたいことが、なかなか先生に伝わらなくて病気の本当の原因が捉えにくくなることもよくあることです。
誰でも、初対面の人に何でもかんでも正直に話せるかと言えば、私もそうですが、そう簡単にできることではありません。
「この人って信用してもいいのだろうか?」
「こんなこと言ったら、怒られるかもしれない…」
「こんなこと言ったら、笑われるかもしれない…」
とか、思ってしまったら話せなくなってしまいますよね。
逆に「前にも聞いたけど、先生のおっしゃることが何回聞いても、よく理解できないし…」と感じてしまったら、どんなに理解しようと努力したって無理ですよね。
漢方薬での治療というのは、ただ単に、『その人独自の体質に漢方薬を合わせていく』というとってもシンプルな方法なのですが、それは『患者さんと共同作業の上に成り立つ』ところが大きいのです。
ですから、治療者と患者さんとのやりとりがうまくできない場合は、病気を治すということ自体が困難になるわけですね。
どうして、出す漢方薬が人によって違うかという理由は、「治療者も患者さんもどちらも個性があるからです!」
患者さんと漢方医の両者でどれだけ、あなた独自の根本的な原因を見つけ出せるかが、漢方治療のポイントですね。
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【引用先及び参考図書・Webサイト】
◯ 図説東洋医学(基礎編):学研
◯ 漢方概論:創元社
◯ 漢方臨床ノート(論考編):創元社
◯ やさしい中医学入門:東洋学術出版社
◯ 中医診断学ノート:東洋学術出版社
◯ 中医処方解説:神戸中医学研究会
◯ まんが漢方入門:医道の日本社